農林水産省/(1)世界の食料事情と農産物貿易交渉 ア 世界の農産物貿易と食料需給の動向
(世界経済が拡大しグローバル化が進展)
近年、世界経済は大きく拡大している。国際通貨基金(IMF)によると、最近の世界経済の成長率は高い伸び率を示しており、今後も4%強の成長が続くとされている(*1)。このようななか、BRICs(*2)のような新興諸国が台頭し、先進国とともに世界経済のけん引役としての役割を果たしている。
世界経済の拡大とともに世界の貿易額は増大しており、2005年は10兆7,830億ドルと、10年前の2倍となっている(*3)。また、世界の海外直接投資も拡大しており、2005年では、国境を越えた企業合併・買収の活発化等により、直接投資額が大きく増加している(*4)。
このように、財や資本等が世界中を移動し、経済的な結び付きが深化することで世界経済のグローバル化が進展している。
*1 IMF「World Economic Outlook September 2006」データ(エクセル:15KB)
*2 近年、経済発展が著しいブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字を合わせた4か国の総称。
*3 世界貿易機関(WTO)「WTO statistics database」輸入額ベース。データ(エクセル:14KB)
*4 国連貿易開発会議(UNCTAD)「World Investment Report 2006」データ(エクセル:15KB)
(世界の農産物貿易も拡大)
グローバル化の進展に伴い、世界の農産物貿易は、北米、欧州、東アジアを中心に拡大し、2004年には約4千億ドルとなっている(図1-1)。また、国連食糧農業機関(FAO)では、2006年における世界の食料輸入額は、過去最高額になると予測している(*5)。
近年では、経済成長が著しい開発途上国において農産物貿易が拡大している。例えば、中国では、経済発展に伴い食生活の多様化が進展し、油脂類の需要が増大していることから、大豆や油脂の輸入が増大する一方、国際競争力の強い野菜や加工食品等の輸出が拡大している。また、ブラジルでは、大規模な農業開発や多国籍企業の農業参入等による経営規模の拡大により、大豆や畜産物を中心に輸出が拡大している。
*5 FAO「Food Outlook(No.2 December 2006)」データ(エクセル:14KB)
(農産物は貿易率が低く、輸出は特定の国や地域が占有)
今後、グローバル化の進展に伴い、貿易自由化の流れが一層強まることが予想されるなか、農産物貿易の一層の拡大が見込まれるが、農産物貿易には様々な特徴がある。
トップマネジメントチームを話し合う
農業生産は、自然条件の制約を強く受けやすいため、生産量の変動が大きいこと、生産に一定期間を有すること等から、国際的な需要の変動に即座に対応することが困難であるという特徴がある。これに加え、農産物は、基本的には、まず生産国の国内消費に仕向けられることや貯蔵性の問題もあり、鉱物資源や工業製品と比べ貿易率は低い傾向にある(図1-2)。
また、主要農産物の輸出は、上位1~5か国で全体の7割以上を占めており、特定の国や地域が大きな割合を占める構造となっている(図1-3)。
(安定的な農産物輸入の確保と国内農業生産の向上が重要)
このような農産物貿易の特徴を踏まえると、農産物輸入に依存する国や地域は、自国の食料安定供給の確保に向けて、国内農業生産の増大を図ることを基本としつつ、農産物輸入の確保と備蓄を適切に組み合わせていくことが重要となっている。
(穀物の期末在庫率は1970年代前半と同様の水準)
世界の穀物の需給動向は、人口増加や開発途上国を中心とした経済発展に伴い、消費量が増加する一方、1人当たり耕作面積が減少し、単収の伸びが鈍化してきたことから生産量の伸びも鈍化し、近年では、2004年を除き生産量が消費量を下回って推移している(図1-4)。
また、それに伴い期末在庫率は低下し、2006年には、世界的な異常気象等により一部農作物の輸出制限も行われた1970年代前半と同様の低水準となっている。
(最近の穀物・大豆の価格は上昇傾向)
2000年以降の穀物・大豆の価格は、2002年の米国等の干ばつや2003年の欧州の熱波の影響を受けて上昇し、特に大豆は、中国の搾油需要の増大等から高騰した(図1-5)。2004年は、良好な気象条件から世界的な豊作となり、価格は比較的低位で推移したが、2006年に入ると、小麦では豪州の干ばつによる大幅な減産、とうもろこしでは米国におけるエタノール需要の伸び等から価格が上昇している。
(一層の増大が見込まれる食料需要)
世界の人口は現在65億人(2006年)であるが(*1)、今後、開発途上国を中心に増加し、2050年には1.4倍の90億人を超すと予測されており(*2)、食料需要は一層増大することが予測される。
FAOによれば、開発途上国では、穀物需要が1999~2001年の3か年平均の数値である11億トンから2050年には21億トンにまで増大し、それに対応するため、3億トンを輸入せざるを得ないと予測されている(図1-6)。
"攪拌用の反意語"
また、開発途上国1人当たりの品目別食料消費は、所得向上による食生活の多様化の進展等に伴い、1999~2001年の3か年平均の数値に比べ、2050年には油脂類で54%、食肉で65%増加することが予測されるなど、食料全体の需要増大が見込まれている(*3)。
*1 米国中央情報局(CIA)「World Fact Book 2006」
*2 国連「World Population Prospects :The 2004 Revision」データ(エクセル:14KB)
*3 FAO「World agriculture :towards 2030/2050」データ(エクセル:14KB)
(食料供給に内在する水資源の不足)
このように、世界の食料需要は増大することが見込まれているが、生産面については、水資源の不足や地球温暖化の影響等、中長期的にみて多くの不安定要因が存在する。
水資源については、人口増加や経済発展により、世界の取水量は過去40年間で2倍程度に増加し、現在、約4千km3(2003年)が利用されている(*4)。そのうち7割が農業で利用されているが、近年、工業利用や生活利用の割合が上昇するなかで、全体の取水量に占める農業利用の割合が低下している。
また、水資源は降水量等との関係もあり、偏在しているため、局地的には既に水資源が不足している国や地域も存在している。例えば、中国では、水不足は400億m3にのぼり、2001年からの第10次5か年計画の期間、干ばつにより毎年平均3,500万トンの食糧の減産を招いたといわれている(*5)。
*4 世界自然保護基金(WWF)「Living Planet Report 2006」
*5 中国水利学会2006年学術年次総会における中国水利部幹部の発言による。
(地球温暖化の進行が農業生産へ大きな影響を与えるおそれ)
化石エネルギー源を重視しつつ高い経済成長を実現する社会において、地球温暖化が進行した場合、2050年の世界の穀物生産量は1990年対比で約2億トン減少するという予測結果もみられるように(*1)、地球温暖化の進行が世界の農業生産に大きな影響を与えるおそれがある。
また、2006年には4年ぶりにエルニーニョ現象が発生したが、世界中で異常気象の多発に伴う干ばつや塩害、砂漠化の進展による農業生産の減少、海面水位の上昇による沿岸部の農地の減少や高潮の被害等の可能性も高まる懸念がある。
*1 Perry et al.(2001年)。大気中の二酸化炭素濃度の上昇による農作物への施肥効果はなしとして試算。
地球温暖化の予測
"影響作戦"とは何です
気象変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書第1作業部会報告書(2007年)は、地球温暖化の今後の見通しについて、21世紀末(2090~99年)時点でSRESシナリオ(*2)別に平均気温上昇、平均海面水位上昇を以下のように予測しています。
・平均気温上昇:B1では約1.8℃(1.1~2.9℃)、A1F1では約4.0℃(2.4~6.4℃)。[1980~99年と比較]
・平均海面水位上昇:B1では18~38cm、A1F1では26~59cm。[同上]
また、同報告書第2作業部会報告書では、世界的には、地域気温の上昇幅が1~3℃までは潜在的食料生産は増加するが、それを超えて上昇すれば、減少に転じると予測しています。
*2 排出シナリオに関する特別報告(2000年)の排出シナリオ。このうち、B1は、環境の保全と経済の発展が地球規模で両立する社会、A1F1は、化石エネルギー源を重視しつつ高い経済成長を実現する社会を描いている。
(燃料用エタノールをはじめとする食用以外での穀物需要が増大)
近年、地球温暖化の防止やエネルギー資源の石油依存からの脱却等に向け、バイオマスの利活用への取組が世界各国で行われており、食用以外での穀物需要が増大している。
例えば米国では、とうもろこしを活用した燃料用エタノールの生産が積極的に行われており、輸出量を含めた総需要量に占める燃料用エタノールへの使用割合が著しく上昇し、2006年では18%に及んでいる(図1-7)。また、米国農務省では、10年後の燃料用エタノールへのとうもろこしの使用量が、米国の総需要量の31%まで上昇するとも予測している(*3)。
経済発展による開発途上国を中心とした食肉需要等の増大により、飼料用穀物需要の増大が見込まれるなか(*4)、世界のとうもろこし輸出量の7割を占める米国の燃料用エタノール需要の増大は、世界の食料需給に大きな影響を及ぼす可能性がある。
*3 米国農務省「USDA Agricultural Baseline Projections to 2016」データ(エクセル:15KB)
*4 牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵1kgの生産には、とうもろこし換算でそれぞれ11kg、7kg、4kg、3kgと多くの穀物が必要である(農林水産省試算)。
(近年、横ばいで推移する世界の栄養不足人口)
現在、世界には、8億6千万人(*1)の栄養不足人口が存在し、そのうち9割以上が開発途上国に存在している。1980年代は、「緑の革命」による農業生産の向上や経済発展による国民所得の向上等により、東アジアを中心に栄養不足人口が大きく減少した(図1-8)。
しかし、サブ・サハラ・アフリカ(*2)では、経済発展や農業生産技術、生産基盤の整備が他地域と比べ著しく遅れていること等から、栄養不足人口の増加が続いている。
このようななか、近年では、世界全体の栄養不足人口は、減少することなく横ばいで推移しており、1996年の世界食料サミットによる「2015年までに世界の栄養不足人口を半減する」という目標の達成は、困難な状況となっている。
*1 FAO「Food Security Statistics」。2002~2004年の推計値である。
*2 アフリカのうち、サハラ砂漠より南部の地域の呼称。アフリカは、文化圏及び人種の違い等からサハラ砂漠の南北で大きく2つに分けられる。
(開発途上国における自助努力と国際的な支援が重要)
このため、栄養不足人口を多くかかえる開発途上国に対する食糧援助とともに、開発途上国における農業生産の持続的な発展や農産物の国際競争力強化に向けた取組への自助努力が必要であり、そのような取組を支援するための国際的な協力・援助が重要となっている。
しかしながら、先進諸国や国際機関だけでは解決できない問題も多くあることから、中国や東南アジアの先進的な開発途上国からアフリカをはじめとする後発開発途上国等への技術協力が積極的に行われることが求められる。また、このような取組に対し、先進諸国が支援していくことが重要である。
(国内農業生産の持続的な発展を基本とした食料の安定供給の確保を図る必要)
世界の人口増加等に伴う食料需要の増大、生産面での多くの不安定要因により、世界の食料需給が中長期的にはひっ迫する可能性が指摘されるなかで、栄養不足人口を多くかかえる国や食料の多くを輸入に依存する国は、自国の農業生産の持続的な発展を基本とし、食料の安定供給の確保を図る必要がある。
今後、食料確保に向けた各国の取組や国際的な支援を通じ、世界の食料安全保障が確保されるよう各国が努力・協力していくことが求められる。この場合、例えば我が国でいえば、東アジアの食料供給の安定を図るなど、幅広い視点からの取組も必要である。
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